地方自治を脅迫する 総務省の愚
「言う事を聞かない」自治体を
「村八分」にする総務官僚の「権力濫用」
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磯山 友幸
ふるさと納税制度を利用して 人気の「返礼品サイト」を作り、多額の寄付を集めた 大阪府泉佐野市などに対する
総務省の「いじめ」が熾烈さを増している。
6月からの「新制度」から、泉佐野市など4市町を除外することを 5月14日に発表。
これに反発した泉佐野市が 総務大臣宛てに「恣意的な判断において決定された疑いがある」として質問状を出したが、
これに対して 総務省は5月24日、「貴市が(対象を定めた)告示の規定に該当しないことは明らか」だとする、
そっけない返事を返した。
43の市町村にも「脅し」
5月14日に総務省は、泉佐野市のほか、佐賀県みやき町、静岡県小山町、和歌山県高野町の4市町を対象から外すことを決めた。6月1日以降、これらの市町に寄付しても、ふるさと納税制度上の税優遇は受けられなくなる。
制度の優遇措置では、払っている地方税などから税額控除され、実質2000円の負担で済む。
一方で、各市町村が工夫を凝らした「返礼品」を受け取ることができるため、国民の間でブームを巻き起こした。
今回、総務省が4市町をいわば「村八分」にしたのは、「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限る」
とした総務省の「指導」に従わなかったため。
「お上」の言う事を聞かない自治体への「懲罰」の色彩が濃い。
新制度では、返礼品について「3割以下の地場産品」という上限を法律で定めた。
泉佐野市などでは 5月末までのいわば「駆け込み」で、アマゾンのギフト券などを上乗せした
高い「還元率」を示して多額の寄付を集め、総務省の神経を逆なでした。
泉佐野市などは 6月から 法律に従うことを表明して 新制度への参加を申請していたが、
総務省がこれを却下したのである。
法律に違反したわけではないにもかかわらず、以前の行いが悪かったから 新しい制度には入れない、ということだ。
総務省は4月1日に「告示」を出し、ふるさと納税の新ルールを事細かに記載している。
「返礼品を強調した寄付者を誘引するための宣伝広告」や「住民への返礼品の提供」も禁止された。
また、返礼品に 募集のための経費を加えた費用の総額が 寄付の5割を超すことも禁止された。
ただし、寄付の合計額が少ないなど「やむを得ない事情があると総務大臣が認める場合は、この限りでない」としている。
総務相在任時にふるさと納税の導入を提唱した菅義偉官房長官=2019年5月30日、首相官邸【時事通信社】
潜在的な寄付者が多い首都圏の鉄道では、返礼品の写真を掲げた広告が少なくないが、
これも総務省に見つかれば 制度からの「除外」対象になる。
何せ、4自治体のほかにも 多額のふるさと納税を集めている43の市町村に対して、
新制度の適用を 6月から9月までの4カ月間に限り、
総務省の言う事に従わなければ、10月以降は除外するぞと「脅して」いるのである。
https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00266_201906070001
「法治国家ではやってはいけない」
6月から始まる新制度への参加を 初めから除外された 4市町を除外した法令上の「根拠」は、4月1日の「告示」にある。
実は告示の中に、驚くべき規定が盛り込まれていたからだ。
2018年11月1日以降から申請までの間に、
「趣旨に反する方法により 他の地方団体に多大な影響を及ぼすような寄付金の募集を行い」
「他の地方団体に比して 著しく多額の寄付金を受領した地方団体」
は制度から除外するとしたのだ。
何と、5カ月 過去に遡って行動を問題視するというわけだ。
法治国家では、「不遡及の原則」と言って、
法律を変えた場合に その法律を 過去に遡って適用する事はできない というのが常識中の常識になっている。
総務省から地方自治体への「告示」は、そんな原則など関係ない、といわんばかりだ。
実は、総務省は 3月にも禁じ手を行っていた。
12月と3月の 年に2回交付される「特別交付税」を、泉佐野市など4市町に対して、
ふるさと納税で多額の寄付を集めたことを理由に 大幅に減額したのだ。
国から地方自治体に配られる 交付税交付金の支給については、計算式が決まっている。
特別交付税も 総務省令で決まっているが、
これを3月20日になって改正し、事後的に見直すことで減額したのだ。
泉佐野市は 前年同時期に比べて 1億9500万円減、みやき町が 2億900万円減、小山町が 7400万円減、
高野町が 2億3300万円減となった。
ふるさと納税制度の設計に携わった 元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授は メディアのコラムで、こう指摘していた。
「最大の問題点は事後対応、つまり後出しじゃんけんだということだ。これは、法治国家ではやってはいけないものだ」
総務省は後出しじゃんけんで、言う事を聞かない自治体を ふるさと納税制度から追い出したわけだ。
https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00266_201906070002
総務官僚の「胸先三寸」で
総務官僚は もともとふるさと納税制度に反対している。
自治体の財政状態に応じて行う交付税交付金の分配は、総務官僚にとっては 権力の源泉だ。
黙って言う事を聞いていれば、財政赤字を垂れ流していても、交付金で穴埋めしてくれる。
赤字の地方自治体の首長は、せっせと総務官僚や、総務省に影響力を持つ政治家に「陳情」して、
災害時などの助成金上乗せをお願いする。
一方で、総務官僚は、県の副知事や部長、市の副市長などに 現役出向して顔を売り、
知事や市長選挙に 候補として出馬する素地を作る。
明治以来の「官選知事」の時代を引きずっているわけだが、その権力基盤が 交付税交付金制度なのだ。
納税者の意思で 納税先を動かせる「ふるさと納税」制度は、そうした権力基盤を突き崩すことになりかねない。
ふるさと納税制度ができて、市町村の職員の意識が大きく変わった。
寄付を増やし 収入を増やすために、どんなアピールができるのかを考えるようになったのだ。
総務省を向いて 交付金を増やしてもらうための努力をするのではなく、
「地方創生」に向けて 寄付者(納税者)にどうアピールするのか、
自分たちで努力する機運が生まれたのである。
だが、そうした「自立」の機運こそ、総務官僚にとっては「危険」と映ったのだろう。
ふるさと納税の総額は、2017年度で 3653億円。
地方税の個人住民税収だけでも 年間に13兆円ある。
仮に その2割がふるさと納税されれば、2兆6000億円だ。
ふるさと納税が フルに使われるようになったとしても、
総務官僚が握る 地方交付税交付金の 15兆円には はるかに及ばない。
それでも、自立する自治体が出て来ることを恐れたのだろう。
最大の問題児とされた 泉佐野市は、2016年度に 寄付受け入れ額が 34億8400万円と ベスト8に登場、
翌2017年度には 135億3300万円を集めて トップに躍り出た。
2018年度の集計結果は まだ公表されていないが、497億円を超えるとみられる。
みやき町や小山町、高野町も 150億円を大きく超えた模様だ。
要は、多額の寄付を集めた市町に 総務省は目を付けたのである。
泉佐野市への 2016年度の地方交付税交付金は 10億2540万円。
交付税交付金の 50年分近くもの寄付を集めたことになる。
こうなると、総務省の言うことを聞かなくなるのは当然だろう。
泉佐野市などが 寄付金欲しさに やり過ぎだったことは確かだ。
それを封じるために 法律を変えたのも分かる。
だが、省令や告示といった 官僚の胸先三寸で 地方自治体に言う事を聞かせようとする 総務省の姿勢は、
明らかに間違っている。
小山町では 4月の統一地方選で、ふるさと納税での寄付集めを進めた前町長が落選した。
住民から「やり過ぎ」にNOが下され 新町長になったにもかかわらず、
総務省は 過去の行状をもって「除外」した。
しかも、制度に復帰させるかどうか、
いつ復帰を許すかどうか も
すべて、総務官僚の「胸先三寸」だという。
地方を自立させないための 総務省の地方いじめは、これからもまだまだ続きそうだ。
(2019年5月)
◇ 記者 ◇
【磯山 友幸】1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。
87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。
その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。
現在はフリーの経済ジャーナリスト。
著書に『2022年、「働き方」はこうなる』(PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、
『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、
共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、
編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、
『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00266_201906070003
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